「なんとなく」書き出しを卒業する
YouTubeにアップするたびに設定を迷う、クライアントから「再納品してほしい」と言われる、書き出したファイルが想定より重い……。書き出し設定の悩みは尽きません。
原因のほとんどは「用途に合った設定の基準を持っていないこと」です。DaVinci Resolveのデリバーページには多くの選択肢がありますが、用途ごとのベストプラクティスを一度整理してしまえば、以降の作業はスムーズになります。
この記事では、YouTube・X(Twitter)・Instagram・クライアント納品の4つの用途に分けて、解像度・コーデック・ビットレート・fps・カラースペースの推奨値を一覧表にまとめました。各設定値の理由も添えていますので、「なぜその値なのか」を理解した上で使えます。
デリバーページの基本構造
設定の話に入る前に、DaVinci Resolveのデリバーページの構成を確認しておきましょう。
デリバーページには「Export Video」「Export Audio」の区画と、その上部に書き出しプリセットが並んでいます。「YouTube」「Vimeo」「Twitter」などの専用プリセットも存在しますが、これらは最大解像度・コーデック・フレームレートをある程度自動で判断する便宜的な設定です。プリセットをベースにカスタマイズする使い方が実際には多くなります。
コーデックとフォーマットの組み合わせには制約があります。代表的なのは以下のとおりです。
| コンテナ形式 |
使えるコーデック |
| .mp4 |
H.264, H.265(HEVC), ProRes(macOS限定) |
| .mov |
ProRes, H.264, H.265 |
| .mxf |
DNxHD/HR, ProRes |
| .avi |
H.264(Windows環境) |
ファイル形式を先に決めてからコーデックを選ぶのが基本手順です。
用途別 書き出し設定 早見表
YouTube向け書き出し設定
YouTubeはアップロード後に独自の再エンコードを行うため、「アップロード前にどれだけ品質を保持するか」が基準になります。
| 項目 |
1080p(SDR) |
4K(SDR) |
4K(HDR) |
| 解像度 |
1920×1080 |
3840×2160 |
3840×2160 |
| コーデック |
H.264 |
H.264 / H.265 |
H.265 |
| ビットレート(目安) |
10〜15 Mbps |
35〜45 Mbps |
44〜56 Mbps |
| fps |
元素材と同じ |
元素材と同じ |
元素材と同じ |
| カラースペース |
Rec. 709 |
Rec. 709 |
Rec. 2020 / HLG または PQ |
| オーディオ |
AAC 320kbps |
AAC 320kbps |
AAC 320kbps |
| コンテナ |
.mp4 |
.mp4 |
.mp4 |
ビットレートの数値は、YouTube公式のヘルプページ(アップロード推奨エンコード設定)に基づく目安です。特にアクションが多い映像(高速な動き・複雑な背景)では上限値に近い値を使うと、再エンコード後の劣化を抑えやすくなります。
fps(フレームレート)は元素材に合わせるのが原則です。24fpsで撮影した映像を30fpsで書き出すと、補間による不自然なブレが生じることがあります。
HDRで書き出す場合は、カラーマネジメントの設定(プロジェクト設定のカラーサイエンス)との整合性を必ず確認してください。Rec. 2020の色域で仕上げた映像をSDR設定で書き出すと、意図した色が再現されません。
Xは動画のファイルサイズと長さに制限があります(2024年時点の一般アカウント:最大512MB、最長2分20秒程度)。ファイルサイズを抑えながら視認性を維持する設定が求められます。
| 項目 |
推奨設定 |
| 解像度 |
1920×1080(最大) |
| コーデック |
H.264 |
| ビットレート(目安) |
5〜8 Mbps |
| fps |
30fps(60fps可) |
| カラースペース |
Rec. 709 |
| オーディオ |
AAC 128〜192kbps |
| コンテナ |
.mp4 |
Xはアップロード後に独自の再エンコードを行うため、画質の劣化をゼロにはできません。それよりもファイルサイズを適切に抑えて、アップロードのエラーを防ぐことを優先しましょう。ビットレートを上げすぎると制限を超える可能性があります。
短尺の縦型動画(リール風コンテンツ)を投稿する場合は、解像度を1080×1920(縦型)に変更し、デリバーページの「Fit」ではなく「Crop」でフレームを調整してください。
Instagram向け書き出し設定
Instagramはフィードとリールで推奨仕様が異なります。また縦型(9:16)か正方形(1:1)かによっても解像度が変わります。
| 用途 |
解像度 |
コーデック |
ビットレート(目安) |
fps |
アスペクト比 |
| フィード動画(横) |
1920×1080 |
H.264 |
8〜10 Mbps |
30fps |
16:9 |
| フィード動画(正方形) |
1080×1080 |
H.264 |
8〜10 Mbps |
30fps |
1:1 |
| リール |
1080×1920 |
H.264 |
8〜10 Mbps |
30fps |
9:16 |
| ストーリーズ |
1080×1920 |
H.264 |
6〜8 Mbps |
30fps |
9:16 |
カラースペースはRec. 709(sRGB)が安全です。Instagram側の変換処理により、広色域の素材をそのままアップすると彩度が崩れる場合があります。
DaVinci Resolveでは、デリバーページの「Format」を「MP4」、「Codec」を「H.264」に設定し、「Resolution」から用途に合った解像度を選びます。カスタム解像度を入力する場合は、「Custom」を選択して数値を直接入力してください。
クライアント納品向け書き出し設定
クライアント納品は、発注元の指定が最優先です。指定がない場合は、後工程(映像編集・放送・Web掲載等)を考慮した非圧縮または中間コーデックを選ぶのが一般的です。
| 用途 |
解像度 |
コーデック |
ビットレート(目安) |
コンテナ |
| Web掲載(MP4納品) |
指定による(多くは1920×1080) |
H.264 |
10〜20 Mbps |
.mp4 |
| 高品質マスター |
指定による |
Apple ProRes 422 HQ(Mac)/ DNxHR(Win) |
可変(非常に大) |
.mov / .mxf |
| 編集素材受け渡し |
元素材と同じ |
ProRes / DNxHR |
中間コーデック |
.mov / .mxf |
| 放送・映画向け |
指定による |
指定に従う |
指定に従う |
指定に従う |
教えてきた受講者の中でも「クライアントに設定を指定されなかったからMP4で送ったら再納品を求められた」というケースが少なくありません。初めての取引先には、納品仕様を事前に確認するひと手間を惜しまないことが大切です。
中間コーデック(ProRes・DNxHR)はファイルサイズが非常に大きくなります。1時間のProRes 422 HQ素材が100GB超になるのは珍しくありません。納品前に十分な空き容量があるか確認してください。
コーデック別の特性を理解する
早見表の数値を正しく使うために、各コーデックの特性を簡単に整理しておきます。
H.264(AVC)
現在もっとも広く使われているコーデック。対応デバイス・プレーヤーが多く、ファイルサイズと画質のバランスが取れています。YouTubeへのアップロード、SNS投稿、Web納品に適しています。
書き出し速度はH.265より速く、互換性の問題も少ないため、迷ったときはH.264を選ぶのが無難です。
H.265(HEVC)
H.264と同等の画質を約半分のビットレートで実現できるコーデック。4K・8K素材の書き出しに有効で、ファイルサイズを大幅に削減できます。ただし、古いデバイスやプレーヤーでは再生できない場合があります。
DaVinci Resolveでは「H.265 Master」プリセットも用意されており、高画質のまま比較的小さいファイルに収めたいケースで活用できます。
H.264とH.265の詳細な比較と設定の違いについては、H.264とH.265の違いと書き出し設定で詳しく解説しています。
Apple ProRes
Appleが開発した中間コーデック。非常に高い画質を保持でき、映像業界のプロフェッショナルワークフローで標準的に使われます。macOS環境で対応しており、WindowsではProResの書き出しができない場合があります(読み込みは可能)。
DNxHD / DNxHR
Avid Media Composerと互換性のある中間コーデック。WindowsとmacOSの両方で書き出し可能で、放送・映像業界での受け渡しに使われます。ProResと同様にファイルサイズは大きくなります。
コーデックとその性質の詳細な解説は、コーデックと品質・サイズの関係も参考にしてください。
ビットレートの考え方
ビットレートは「1秒間に処理するデータ量」を表します。数値が高いほど高画質になりますが、ファイルサイズも大きくなります。
DaVinci Resolveのデリバーページでは、「Quality」の項目でビットレートを設定できます。設定方式は主に3種類あります。
| 設定方式 |
特徴 |
使い場面 |
| Restrict to(最大ビットレート制限) |
指定値を上限として可変 |
ファイルサイズを抑えたいとき |
| Target bitrate(目標ビットレート) |
平均が指定値になるよう可変 |
一般的な書き出し |
| Constant bitrate(固定ビットレート) |
常に同じビットレート |
配信・ライブ向け |
SNS向けや一般的なYouTubeアップロードでは「Target bitrate」か「Restrict to」が使いやすいです。
ビットレートの最適値についての詳しい解説は、YouTubeに最適なビットレート設定をあわせて参照してください。
カラースペースと書き出しの関係
カラースペースの設定ミスは、書き出し後に「色が違う」「白飛びしている」という問題につながります。
基本的な対応関係は以下のとおりです。
| 視聴環境 |
カラースペース |
転送特性 |
| 一般的なWeb・スマートフォン |
Rec. 709 |
SDR(Gamma 2.4) |
| YouTube・Vimeo(SDR) |
Rec. 709 |
SDR |
| YouTube・Netflix(HDR) |
Rec. 2020 |
HLG または PQ(ST 2084) |
| デジタルシネマ |
P3 DCI |
Gamma 2.6 |
| 放送(日本) |
Rec. 709 |
SDR |
DaVinci Resolveのプロジェクト設定「カラーマネジメント」でカラーサイエンスを「DaVinci YRGB Color Managed」に設定している場合、書き出し時に「Output color space」が表示されます。ここでRec. 709を指定すれば、ポスト処理の色が一般的なモニターに適した状態で書き出されます。
カラーマネジメントを使用していない(手動グレーディング)場合は、グレーディング作業がRec. 709の範囲内で行われていることを確認してから書き出しを行ってください。
デリバーページ操作の流れ
設定値がわかったとして、デリバーページでの操作手順をまとめておきます。
- デリバーページ上部のプリセットから近いものを選ぶ(YouTubeならYouTube、そうでなければCustomを選択)
- 「Export Video」のチェックをONにする
- 「Format」でコンテナ形式(MP4など)を選択
- 「Codec」でコーデック(H.264など)を選択
- 「Resolution」で解像度を設定(Customを選べば任意の値を入力可)
- 「Frame rate」でfpsを確認(「Match Timeline」設定で元のタイムラインに合わせられる)
- 「Quality」でビットレートを設定
- 「Export Audio」でオーディオ設定(コーデック・サンプルレート・チャンネル)を確認
- 「File」タブで保存先とファイル名を設定
- 「Add to Render Queue」でキューに追加
- 右下の「Render All」でレンダリング開始
なお、デリバーページでの書き出し全体戦略については、DaVinci Resolveの書き出し戦略で詳しく解説しています。
よくある設定ミスと対策
fpsを元素材と変えてしまう
タイムラインのフレームレートと書き出しのフレームレートを一致させないと、映像が正しく再生されません。「Match Timeline」オプションを使うか、タイムラインのfpsを確認してから設定します。
ビットレートを上げすぎてアップロードに時間がかかる
YouTubeへのアップロードでは、120Mbps以上に設定してもほとんど差がありません。1080pなら20Mbps前後で十分です。必要以上に上げてもファイルサイズが増えるだけです。
MP4形式でProResを書き出そうとしてエラーになる
ProResはMOVコンテナとの組み合わせが基本です。FormatをMOVに変更してから再試行してください。
音声が書き出しに含まれない
「Export Audio」のチェックがOFFになっている場合があります。デリバーページの左パネルで確認してください。
設定を決めるための判断フロー
用途が複数ある場合や、初めての書き出しで迷う場合は、以下の順番で考えると整理しやすいです。
- 「どこに出す(配信先)か」を決める
- 配信先の仕様・制限を確認する
- 解像度を決める(4K / 1080p / その他)
- コーデックを決める(H.264 / H.265 / ProRes等)
- ビットレートを決める(配信先推奨値の範囲内で)
- fpsを確認する(元素材に合わせる)
- カラースペースを確認する(SDR/HDR)
- オーディオを設定する
この手順を一度メモしておくと、次回以降の書き出し作業が格段に速くなります。
書き出し設定の理解を深めるために
早見表の数値を使いこなすには、各設定値の背景にある考え方を少し知っておくと応用が効きます。
DaVinci Resolveの書き出し機能には、プリセットのカスタマイズ・レンダーキューへの複数登録・フォーマット単位の出力など、効率化のための機能も多数あります。DaVinci Resolveの全体的な使い方を体系的に学びたい場合は、DaVinci Resolveの使い方完全ガイド2026も参照してください。
書き出し設定の最適化は、撮影・編集・グレーディングと並ぶ動画制作の重要な工程です。早見表を手元に置いて、用途に応じた設定を迷いなく選べるようになれば、制作フロー全体の効率が上がります。
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